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釧路地方裁判所 昭和36年(わ)98号 判決 1966年3月02日

(一)本店所在地

釧路市末広町一一丁目三番地

釧路貨物自動車株式会社

右代表者代表取締役

工藤清

(二)本籍ならびに住居

釧路市城山町一二九番地

釧路貨物自動車株式会社代表取締役社長

工藤清

大正四年一二月二三日生

右会社ならびに右の者に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は、検察官則定衛出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人釧路貨物自動車株式会社を、判示第一の事実につき罰金五〇〇、〇〇〇円に、判示第二の事実につき罰金一、〇〇〇、〇〇〇円に、被告人工藤清を判示第一の事実につき罰金一五〇、〇〇〇円に、判示第二の事実につき罰金二五〇、〇〇〇円に、それぞれ処する。

被告人工藤清が同人に対する右各罰金を完納することが出来ないときは、金二、五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告人等の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人釧路貨物自動車株式会社は、昭和二六年九月二〇日資本金二六五、九〇〇円をもつて設立され、同三〇年一一月資本金一、〇〇〇、〇〇〇円となり、本店を同二年六月一日以来、釧路市末広町一一丁目三番地に置いて、貨物自動車運送およびこれに付帯する一切の業務を営む法人で、被告人工藤清は、同二九年九月二九日以来引き続き同会社の代表取締役として同会社の業務の一切を統轄しているものであるが、被告人工藤は右会社の業務に関し、法人税を逋脱することを企て、

第一、昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日までの事業年度において、被告人会社の所得金額が八、三二二、八五五円、これに対する法人税額が三、二七九、一二〇円であつたに拘らず、昭和三三年五月三一日釧路税務署長に対し、その所得金額二、一七六、二八〇円、法人税額八二〇、四八〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、よつて被告人会社の右事業年度における法人税二、四五八、六四〇円を逋脱し、

第二、昭和三三年四月一日から同三四年三月三一日までの事業年度において、被告人会社の所得金額が一五、六二四、六八四円、これに対する法人税額が五、八三七、三四〇円であつたに拘らず、昭和三四年六月一日釧路税務署長に対し、その所得金額一、六三二、〇三〇円、法人税額五三八、五六〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、よつて被告人会社の同事業年度における法人税五、二九八、七八〇円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人工藤清の当公廷における供述

一、第一回、第一三回、第二五回、第二六回、第二七回各公判調書中被告人工藤清の供述記載部分

一、被告人工藤清の検察官に対する供述調書(一一通)

一、被告人工藤清の収税官吏に対する質問てん末書(一五通)

一、第一〇回公判調書中証人馬場庄一郎、同池田繁吉の各供述記載部分

一、第一二回公判調書中証人中井力蔵の供述記載部分

一、第一六回公判調書中証人村山由太郎の供述記載部分

一、第一七回公判調書中証人長尾勝春の供述記載部分

一、第一八回公判調書中証人紺野健司の供述記載部分

一、第二〇回公判調書中証人小甲幸一の供述記載部分

一、第二二回公判調書中証人荒沢幸一の供述記載部分

一、受命裁判官の証人正札佐九自に対する尋問調書

一、受命裁判官の証人梨本公衛に対する尋問調書

一、佐々速雄(五通)、長尾勝春(三通)、林重一(二通)、紺野健司(二通)、斉藤幸子、池田綱夫、泉晋二、工藤五一郎、田垣光雄、及川潔、中村友吉、小山栄一、山本ソノ、中井力蔵、高橋修二、西田嘉三、横路朋己、大場健司および川守田和三郎の検察官に対する各供述調書

一、佐々速雄の収税官吏に対する質問てん末書(七通)

一、釧路貨物自動車株式会社昭和三二年度法人税額確定申告書の謄本

一、株式会社富士銀行釧路支店長藤野勇吉作成の証明書(二通)

一、株式会社北海道拓殖銀行釧路支店、株式会社北海道相互銀行釧路支店、釧路商工信用組合理事長、株式会社北洋相互銀行釧路支店、釧路信用金庫理事長および株式会社北陸銀行釧路支店各作成の預貯金および借入金一覧表と題する各書面

一、株式会社北海道銀行釧路支店の証明書と題する書面(二通)

一、被告人工藤清、佐々速雄、中島勇、久本敏江、坂口雅美、鬼武定および元川賢一の収税官吏に対する各上申書

一、収税官吏下道耕三作成の報告書(二通)

一、被告人会社の営業報告書の謄本(三通)

一、被告人会社の商業登記簿謄本

一、押収にかかる総勘定元帳一冊(昭和三七年押第五一号の1)

収入補助簿一冊(同号の2。以下枝番号のみを記載する。)

経費帳一冊(3)

手形簿(手形受払帳のこと)一冊(4)

小切手控(当座小切手帳のこと)五冊(5)

伝票綴一二冊(6)

買掛金簿(各店買掛帳のこと)一冊(7)

貸借関係簿二冊(8)

手形割引関係帳(昭和三二年度工藤清用と記された大学ノート)一冊(9)

釧路商工信用組合普通預金通帳一冊(10)

土地売買契約書(領収書、約束手形各一通添付)一通(11)

丸善農林借用金確証(約束手形、メモ書各一通添付)一通(12)

約束手形(額面一五二、五〇〇円)一通(13)

銀行帳(銀行勘定帳のこと)一冊(14)

売上帳二冊(15)

売上帳二冊(昭和三一年度および三二年度一般定期路線綴各一綴のこと)(16)

金銭出納帳二冊(17)

無尽関係の手帳一冊(18)

当座預金出納帳一冊(19)

株券台帳(大学ノートのこと)一冊(20)

白崎建設関係運賃精算表一三枚(21)

川守田契約書一通(22)

浦幌関係請求書など一綴(四四〇枚)(23)

十勝牛乳計算書綴一冊(一〇一枚)(24)

雪印契約書綴二冊(雪印乳業株式会社中標津工場との取引関係書類、北海道バター株式会社釧路工場との取引関係書類各一冊のこと)(25)

総勘定元帳一冊(26)

収入補助簿一冊(27)

銀行勘定帳(富士銀行当座預金帳)一冊(28)

手形割引関係簿一冊(29)

釧路商工信用組合普通預金通帳一冊(30)

金銭出納帳(富士銀行普通預金)一冊(32)

金銭出納帳(北海道銀行普通預金)一冊(33)

金銭出納帳(釧路商工信用組合当座預金)一冊(34)

金銭出納帳(北海道相互銀行、北海道拓殖銀行預金口座)一冊(35)

売上帳二冊(36)

売上帳二冊(昭和三三年度一般綴、定期路線綴各一冊こと)(37)

領収書綴一冊(38)

金銭出納帳一冊(39)

釧路信用金庫当座出納帳一冊(40)

手形割引帳一冊(41)

預金メモ四枚(42)

荷主台帳一冊(43)

昭和三三年度法人税申告書控一綴(44)

銀行勘定帳(北海道銀行分)一冊(45)

銀行勘定帳(富士銀行、北海道拓殖銀行分)一冊(46)

貸借関係簿一冊(47)

昭和三三年度法人税確定申告書一通(48)

釧路貨物自動車株式会社の定款一通(49)

臨時株主総会議事録三通(50ないし52)

定時株主総会議事通(53)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人主張の主要点は、

(一)  本件被告人会社は、法律的には本社と一一ヶ所の営業所からなる単一法人であるが、実質的には被告人工藤清他一一名が被告人会社の名義を借りて個人の計算で運送事業を営んでいたもので、所謂本社部門の運送事業も右工藤個人の営業であつたから、被告人会社の実体は、これら各個人企業の統括機関ないし連絡機関にすぎないところの仮装された法人であつた。従つて被告人会社の法人所得額の算定には、法人格と法人所得の帰属主体とを一致させて一一ヶ所の営業所の損益も総合するか、さもなくば実質に着眼して被告人会社の収入を名義料のみに限定して取扱うべきである。

(二)  被告人工藤清には、本件被告人会社の昭和三二年度、同三三年度の確定申告をする際、法人税逋脱の犯意は存しなかつた。就中同三三年度においては税務署係官の事前の了承を得て所謂概算申告をなしたものである。

(三)  被告人会社が手形割引をなすに際し割引依頼者から受取つていた所謂歩積金は損失担保のための預り金であるから、被告人会社の益金として取扱うべきでない。

(四)  被告人会社には、

(1)  菅原吉身に対する 二六〇、〇〇〇円

佐藤建設工業株式会社に対する 三五〇、〇〇〇円

株式会社沢田組に対する 二五〇、〇〇〇円

沢向和三郎に対する 三〇、〇〇〇円

鈴木善二に対する 九八〇、〇〇〇円

(2)  佐々木土木株式会社に対する 二、〇〇〇、〇〇〇円

新岡幸一に対する 一六〇、〇〇〇円

馬場庄一郎に対する 二七〇、〇〇〇円

梨木公衛に対する 一〇〇、〇〇〇円

栗山栄吉に対する 三〇、〇〇〇円

村山由太郎に対する 七〇〇、〇〇〇円

西岡貞吉に対する 一三二、八〇〇円

星四郎に対する 四九五、六〇〇円

島谷寅吉に対する 三七五、〇〇〇円

黒沢静に対する 一〇〇、〇〇〇円

手塚寅吉に対する 四五、〇〇〇円

池田繁吉に対する 四〇〇、〇〇〇円

岩田安雄に対する 三〇〇、〇〇〇円

沢向政雄に対する 一〇〇、〇〇〇円

渡辺七郎に対する 二〇、〇〇〇円

荒沢幸一に対する 五〇〇、〇〇〇円

(3)  旭木材工業株式会社に対する 五〇〇、〇〇〇円

菊池木工場に対する 五一、八八八円

千場悟郎に対する 二〇〇、〇〇〇円

田中政市に対する 一五〇、〇〇〇円

(4)  釧路トヨペット株式会社に対する出資金一二、〇〇〇、〇〇〇円および道東興業株式会社に対する出資金および貸付金二、五〇〇、〇〇〇円

の不良債権又は投資が存するから損金として取扱うべきであるというにある。

よつて若干の考察を加えることとする。

(一)の主張は、被告人会社の経理方法を前提とするものであるが、前掲各証拠によつて認められる企業活動の実態に徴すれば、所謂本社部門の運送業務は個人の計算において営まれている他の営業所と異なり正しく被告人会社の営業そのものと認められるから弁護人のこの点に関する主張は採用し得ない。

(二)については、前掲各証拠によつて認められる被告人会社の経理方法、被告人工藤の被告人会社内における地位、犯則所得額等から犯意を認めるに充分である。なお昭和三三年度分については、仮に概算申告の便法が認められていたとしても、本件においては申告所得と実所得との差額があまりに大きいこと、就中計算の容易な銀行預金について多額の犯則があること、長期間修正申告がなされなかつたこと等から申告当初から逋脱の犯意があつたことを認めるに充分である。

(三)については、各申告当時、被告人はもとより手形割引依頼者も手形割引料が安いところから手数料又はこれに準ずるものとして取扱われていたと認められるから、当然被告人会社の益金であると認められる。

(四)の主張については、前掲各証拠を総合すると、(1)の各債権はいずれも被告人会社設立前に発生したものであり、(2)の各債権もその性質上被告人工藤清の個人債権であることおよび(3)の各債権はいずれも各事業年度以前に貸倒れになつたものであることが認められるから、右各主張はこれを採用するに由なく、又(4)の各出資についてもこれらは、被告人会社の業務と直接関係のない自動車販売業または映画興業を目的とした会社に対してなされたものであること、および右各出資が被告人会社の取締役会の決定を経ないで被告人工藤の独断で決定されたものであつて、その名義も同被告人等の個人名義であること等を併せ考慮すると、到底被告人会社の出資とは認められず、被告人工藤が被告人会社の金を利用して投資したものと解すべきであるから弁護人のこの点に関する主張も亦採用できない。

次に所得算出の方法について一言するに、被告人会社の当該各事業年度の法人所得の算出は所謂損益法によつたが、各事業年度の収入中運賃収入、名義料収入ならびに雑収入については特に論ずる必要はなく、又預金利息収入についても、預金額、その所得源ならびに支出先、出納の頻度口座数等から考えると、これを被告人会社の収入とするに疑義はないのであるが、ただ昭和三二年度五二、二五〇円、同三三年度二五三、五〇〇円の無尽利息収入はその性格から考え被告人工藤の釧路経済界における個人的活動ないしは交際と考える余地もあるので、これを控除する。また各事業年度の支出に関しては特に触れる要はない。

(法令の適用)

被告人工藤清の判示各所為は、いずれも昭和四〇年法律第三四号付則第一九条(同三七年法律第四五号付則第一一項)により適用される同法律改正前の法人税法(以下旧法と略称する)第四八条第一項(第一八条第一項)に、被告人会社については被告人工藤が判示各所為をなしたもので、いずれも旧法第五一条第一項、第四八条第一項(第一八条第一項)にそれぞれ該当するところ、被告人工藤については各所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上はおのおの刑法第四五条前段の併合罪であるが、旧法第五二条本文により、各所定の罰金額の範囲内において、おのおの主文第一項の罰金刑に処し、被告人工藤が右各罰金を完納することが出来ないときは、刑法第一八条により金二、五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により被告人等の連帯負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 門馬良夫 裁判官 小瀬保郎 裁判官 光辻敦馬)

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